海外に法人を設立する。現地に店舗や拠点を構える。
経営者であれば一度は検討したことがあるかもしれません。国内市場の成熟、コスト削減、現地の規制環境など、動機はさまざまですが、いずれの場合も「手続きの全体像」を把握しておくことが重要です。
本稿では、海外進出における手続きの流れを概観したうえで、「日本の登記簿謄本の英訳」がどの段階で、なぜ必要になるのかを整理します。
海外進出の形態(3つの選択肢)
海外に進出する際、まず検討すべきは「どの形態で進出するか」です。大きく分けて以下の3つがあります。
1. 現地法人(子会社)
現地の法律に基づいて設立する、独立した法人格を持つ会社です。日本の親会社とは別の法人として扱われ、現地の税制や法規制に従います。営業活動にも制限がなく、進出形態として最も自由度が高い選択肢です。
2. 支店
日本の本社の「一部」として、海外に拠点を構える形態です。独立した法人格を持たないため、支店の債務や法的責任は日本の本社が負います。
3. 駐在員事務所
市場調査や情報収集を目的とした、いわば「準備段階」の拠点です。営業活動や販売活動は認められていません。本格的な進出を決める前に、現地の事情を把握したい場合に活用されます。
どの形態で、登記簿の英訳が必要になるか
結論から言えば、いずれの形態でも、登記簿謄本の英訳が必要になる場面があると考えておいた方がよいでしょう。ただし、その理由とタイミングは異なります。
支店を設立する場合
支店は本社の「一部」として扱われるため、本社がどのような会社であるかを現地当局に証明する必要があります。そのため、設立時に以下の書類を求められるのが一般的です。
- 本店の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の英訳
- 本店の定款の英訳
- 取締役全員の身分証明書のコピー
- 代表権者の選任に関する宣誓書
登記簿謄本には、商号、本店所在地、事業目的、役員構成、資本金など、会社の基本情報が記載されています。これを英訳して提出することで、本社の信用と実態を現地当局に示すことになります。
駐在員事務所を設立する場合
駐在員事務所は営業活動ができないため、設立要件は比較的緩やかです。しかし、親会社に関する書類は提出を求められます。
たとえばシンガポールでは、親会社の設立証明書(登記簿謄本)と直近の監査済み財務諸表が必要で、いずれも英訳が必須です。インドの場合は、さらに公証人役場の認証や、インド大使館の承認を受けた登記簿謄本の英訳が求められます。
現地法人を設立する場合
現地法人は独立した法人格を持つため、原則として日本の登記簿謄本の提出は不要です。
ただし、例外があります。親会社(日本法人)が株主となる場合、銀行口座の開設審査で親会社の登記簿謄本の英訳を求められるケースがあります。銀行は「この株主はどんな会社か」を確認したいからです。上場企業や知名度の高い会社であればプラスに働くこともありますが、審査に時間がかかる要因にもなり得ます。
登記簿の英訳、その後に必要な手続き
登記簿謄本を英訳しただけで終わりではないケースもあります。提出先の国や機関によって、以下の追加手続きが求められることがあります。
翻訳証明書
翻訳会社が発行する「この英訳は当社が行ったものである」ことを示す書類です。シンガポールなど、翻訳証明書の添付で足りる国もあります。
公証
公証役場で公証人の認証を受ける手続きです。翻訳者が公証役場に出向き、「この翻訳は私が行った」旨の宣誓書に署名するのが一般的な流れです。アメリカの銀行口座開設などで求められることがあります。
アポスティーユ
ハーグ条約に加盟している国への提出では、外務省が発行するアポスティーユを取得することで、現地での追加認証が不要になります。ヨーロッパ諸国への提出で求められることが多いです。
どの手続きまで必要かは、提出先によって異なります。事前に確認しておくことで、「翻訳はできたけど公証が間に合わない」といった事態を防げます。
まとめ
海外進出の手続きは、進出形態によって大きく異なります。そして、登記簿謄本の英訳が必要になるかどうか、その後に公証やアポスティーユが必要かどうかも、ケースバイケースです。
ただし、いずれの形態であっても、日本の親会社に関する情報を現地当局や銀行に示す場面は多いと考えておいた方がよいでしょう。登記簿謄本は、その最も基本的な証明書類です。
国別の提出実績や、翻訳後の手続きの流れについては、以下のページに詳しくまとめています。
また、登記簿謄本の英訳サービス(対応書類・翻訳サンプル・料金)については、以下をご覧ください。