登記簿の翻訳とスーツケース

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会社名の英語表記は「今後ずっと使うもの」—登記簿翻訳を機に、きちんと決めておきたい

time 2026/01/13

登記簿謄本の英訳を依頼されるとき、意外と多いのが「うちの会社、英語表記がないんですが……」というケースだ。

国内取引だけで完結してきた会社にとって、社名の英語表記を決める機会はなかなかない。しかし、海外との取引が発生した瞬間、英語表記は必要になる。登記簿謄本を英訳して提出するなら、そこに記載する社名も英語で書かなければならない。

このとき、「とりあえずローマ字で」と決めてしまうのは簡単だ。しかし、一度決めた英語表記は、今後ずっと使い続けることになる。後から変更すると、過去の書類との整合性が取れなくなり、面倒なことになる。

だからこそ、登記簿翻訳を機に、会社名の英語表記をきちんと考えておくことをお勧めしたい。

「とりあえずローマ字」の落とし穴

英語表記がない会社の社名を英訳する場合、最もシンプルな方法は日本語をそのままローマ字に置き換えることだ。

たとえば「山田製作所」なら「Yamada Seisakusho」、「丸山商事」なら「Maruyama Shoji」といった具合だ。

これ自体は間違いではない。日本語の社名をそのまま音訳するのは、正確性という意味では最も忠実な方法だ。

しかし、いくつかの問題がある。

1. 海外の人には意味が伝わらない

「Seisakusho」や「Shoji」が何を意味するか、英語話者には分からない。製造業なのか商社なのか、社名から読み取ることができない。

2. 発音しにくい・覚えにくい

日本語のローマ字表記は、英語話者にとって発音が難しいことがある。「Tsuji」「Ryoichi」「Shouji」などは、正しく発音してもらえないことが多い。覚えにくい社名は、ビジネス上の不利になりうる。

3. ブランドイメージが伝わらない

社名には、創業者の思いや事業内容、企業理念が込められていることが多い。しかし、単純なローマ字表記では、そのニュアンスは伝わらない。

社名の英語化、3つのアプローチ

会社名を英語にする方法は、大きく3つに分けられる。

1. 音訳(ローマ字化)

日本語の読みをそのままローマ字に置き換える方法。

例:山田製作所 → Yamada Seisakusho

メリットは、日本語の社名との一貫性が保たれること。デメリットは、意味が伝わらないこと。

2. 意訳(英語に翻訳)

日本語の意味を英語に翻訳する方法。

例:山田製作所 → Yamada Manufacturing

メリットは、事業内容が伝わりやすいこと。デメリットは、日本語の社名と響きが変わること。

3. 創作(新たな英語名を作る)

日本語の社名とは別に、新たな英語名を作る方法。

例:松下電器産業 → Panasonic Corporation

メリットは、グローバル市場でのブランド構築がしやすいこと。デメリットは、日本語の社名との関連が薄くなること。

法人形態の英語表記——選択肢と印象の違い

社名の本体部分だけでなく、「株式会社」や「有限会社」といった法人形態の英語表記も、複数の選択肢がある。

株式会社の英語表記として一般的に使われるものを挙げると:

表記 正式名称 印象・ニュアンス
Co., Ltd. Company, Limited イギリス英語圏で一般的。日本企業でも多用される
Inc. Incorporated アメリカ英語圏で一般的。先進的・国際的な印象
Corp. Corporation アメリカ英語圏で一般的。大企業の印象
Ltd. Limited イギリス英語圏で一般的。シンプル
K.K. Kabushiki Kaisha 日本独自。日本企業であることを明示

どれを選んでも法的な効力に違いはない。日本の株式会社は日本法に基づく法人であり、英語表記はあくまで便宜上のものだ。

しかし、印象は異なる

「Inc.」や「Corp.」はアメリカ的で、先進的・グローバルな印象を与える。シリコンバレーのテック企業を連想する人も多いだろう。

「Co., Ltd.」は日本企業で最も一般的な表記で、安定感・堅実さの印象がある。一方で、やや古風に感じる人もいる。

「K.K.」は日本企業であることを明示する表記だ。日本との関係を強調したい場合には有効だが、海外の人には馴染みがない。

有限会社の場合

有限会社(特例有限会社)の英語表記も複数ある:

表記 備考
Co., Ltd. 株式会社と同じ表記。実態として区別されないことが多い
Ltd. シンプルな表記
Y.K. Yugen Kaishaの略。日本独自
LLC Limited Liability Company。アメリカのLLCとは制度が異なるため注意

有限会社は2006年の会社法施行で新設が廃止されたが、既存の有限会社は「特例有限会社」として存続している。英語表記では株式会社と同じ「Co., Ltd.」を使うことが多い。

一度決めたら変えにくい——だからこそ慎重に

会社名の英語表記は、一度決めて使い始めると、変更するのが難しい。

海外の取引先に提出した契約書、銀行口座の名義、ウェブサイトのドメイン、名刺、パンフレット——あらゆる場所で英語表記が使われるようになる。後から「やっぱり変えたい」となっても、過去の書類との整合性が取れなくなり、「同一法人か?」という疑義を生むことにもなりかねない。

だからこそ、最初に決める段階で、以下の点を考えておくことをお勧めする。

1. ターゲット市場はどこか

主にアメリカと取引するなら「Inc.」、イギリスやアジアなら「Co., Ltd.」が馴染みやすい。

2. どんな印象を与えたいか

先進的・グローバルな印象か、堅実・伝統的な印象か。業種やブランド戦略によって最適な選択は異なる。

3. 発音しやすく覚えやすいか

海外の取引先が電話で社名を言うとき、発音できるか。会議で名前を覚えてもらえるか。

4. 他社と混同されないか

類似の英語表記を使っている会社がないか、事前に確認しておく。

翻訳会社に任せきりにしない

登記簿謄本の英訳を翻訳会社に依頼するとき、社名の英語表記も翻訳会社が決めてくれるだろう——そう思っている方もいるかもしれない。

しかし、翻訳会社が勝手に英語表記を決めることは、通常ない。なぜなら、社名の英語表記は会社のブランドに関わる重要な意思決定だからだ。

翻訳会社は「御社の英語表記は何ですか?」と確認してくるはずだ。そのとき「決めていません」と答えれば、ローマ字表記などの暫定的な案を提示されることになる。

だからこそ、翻訳を依頼する前に、社内で英語表記を決めておくことをお勧めする。登記簿翻訳は、その良い機会だ。

結論

会社名の英語表記は、「とりあえず」で決めてしまいがちだが、一度決めたら今後ずっと使い続けることになる。

社名本体の英語化には、音訳・意訳・創作という3つのアプローチがある。法人形態の表記にも、Co., Ltd.、Inc.、Corp.、K.K.など複数の選択肢があり、それぞれ印象が異なる。

登記簿謄本を英訳する機会は、会社名の英語表記をきちんと考える良いタイミングだ。ターゲット市場、ブランドイメージ、発音のしやすさなどを考慮し、今後のビジネス展開を見据えた英語表記を決めておくことをお勧めする。

この記事の著者

ニシヤマ "登記簿マスター" カツユキ

翻訳専門タイナーズの代表者。2006年に原稿作成会社を立ち上げ、その後、翻訳業務を開始する。自身は言語学を応用した研究領域の大学院既卒者(修士)。表現のニュアンスを大切にしている。

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