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代表取締役の英訳 Representative DirectorとCEOの違い

time 2026/01/15

登記簿謄本を英訳していて、最も頭を悩ませる項目の一つが「代表取締役」だ。

当サイトでは「Representative Director」を基本訳としているが、正直なところ、この英語表現はアメリカ人やイギリス人にはほとんど馴染みがない。「Representative Director? What’s that?」と聞き返されることも珍しくない。

では、「CEO」と訳してしまえばいいのか。それとも、もっと馴染みやすい代替表現があるのか。この問題を整理してみたい。

「Representative Director」が馴染みのない理由

なぜ「Representative Director」は英語圏で馴染みがないのか。

理由は単純だ。アメリカやイギリスの会社法には「代表取締役」に相当する役職が存在しないからだ。

アメリカの会社では、会社を代表するのはCEO(Chief Executive Officer)やPresident(社長)といった「Officer」たちだ。彼らは取締役会(Board of Directors)から選任されるが、必ずしも取締役である必要はない。

イギリスでも同様で、会社を代表するのはManaging DirectorやCEOであり、「Representative Director」という役職名は使われない。

つまり、「Representative Director」は日本語の「代表取締役」を直訳した造語であり、英語圏にはもともと存在しない概念なのだ。

代表取締役とは何か—法的な意味

そもそも「代表取締役」とは、法的にどのような役職なのか。

会社法上、代表取締役は「株式会社を代表する取締役」と定義される。具体的には:

  • 会社の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を持つ
  • 会社を代表して契約を締結できる
  • 会社の名において訴訟の当事者となる

要するに、会社の法的な代表者であり、対外的に会社を拘束する権限を持つ人物だ。

重要なのは、これが「法的な代表権」の問題であって、「経営の最高責任者」とは必ずしも一致しないという点だ。

代表取締役とCEOは同じではない

日本企業で「代表取締役社長」という肩書を見かけることは多い。この場合、代表取締役と社長(=経営の最高責任者)が同一人物になっている。

しかし、両者は概念として別物だ。

代表取締役 CEO / 社長
定義 会社を法的に代表する取締役 経営の最高責任者
権限の性質 法的代表権(契約締結、訴訟など) 経営執行権
複数選任 可能(代表取締役が複数いる会社も多い) 通常は1人
登記 登記簿に記載される 登記事項ではない

日本の大企業では、代表取締役が複数いることが珍しくない。「代表取締役会長」「代表取締役社長」「代表取締役副社長」といった具合だ。全員が法的な代表権を持っているが、経営のトップは社長1人だ。

この状況で「代表取締役」を一律に「CEO」と訳すと、会社に複数のCEOがいるかのような誤解を招く。

なぜアメリカに「代表取締役」がないのか—取締役会の構造の違い

そもそも、なぜアメリカには「代表取締役」に相当する役職が存在しないのか。

その理由は、取締役会(Board of Directors)の役割が日米で根本的に異なることにある。

日本の伝統的な取締役会は、社長・副社長・専務・常務といった業務執行者で構成される「マネジメント・ボード」型だ。取締役自身が経営の意思決定を行い、その決定を自ら実行する。代表取締役は、そうした業務執行取締役の中から選ばれ、対外的に会社を代表する権限を持つ。

一方、アメリカの取締役会は、社外取締役が過半数を占める「モニタリング・ボード」型だ。取締役会は経営陣を監督する機関であり、業務執行そのものは行わない。業務執行を担うのは、CEO、CFO、COOといった「Officer(執行役員)」たちであり、彼らは取締役会から選任されるが、必ずしも取締役である必要はない。

この構造の違いが、「代表取締役」という役職の有無を生んでいる。

日本(従来型) アメリカ
取締役会の役割 業務執行の意思決定 経営陣の監督
業務執行者 取締役(代表取締役を含む) Officer(CEO、CFOなど)
会社の代表者 代表取締役 CEO / President
代表者は取締役か 必ず取締役 必ずしも取締役でない

つまり、日本の「代表取締役」は「取締役であり、かつ、会社を代表する」という二重の性質を持つ。しかしアメリカでは、取締役(Director)と会社の代表者(CEO等)は別の概念として分離している。だから「Representative Director(代表する取締役)」という概念自体が成り立たないのだ。

この構造的な違いを理解しておくと、なぜ「Representative Director」がアメリカ人に通じにくいのかが腑に落ちる。単に言葉の問題ではなく、会社の統治構造そのものが違うのだ。

※取締役会の日米の違いについては、別記事「日本の取締役会とアメリカの取締役会は、同じ「Board of Directors」でも役割が違う」で詳しく解説している。

CEOと訳すことの問題点

「Representative Director」が通じにくいなら、いっそ「CEO」と訳してしまえばいい—そう考える人もいるだろう。

しかし、これにはいくつかの問題がある。

1. 代表取締役が複数いる場合

前述のとおり、代表取締役は複数選任できる。しかしCEOは通常1人だ。「CEO」と訳すと、複数の代表取締役をどう表記するかで困る。

2. CEOが代表取締役でない場合

日本企業でも「CEO」という肩書を使う会社が増えているが、そのCEOが必ずしも代表取締役とは限らない。指名委員会等設置会社では、代表権を持つのは「代表執行役」であり、取締役会議長(Chairman)がCEOを名乗っていても代表権を持たないことがある。

3. 登記上の役職との乖離

登記簿謄本は法的な公文書であり、記載されている「代表取締役」は法的に定義された役職だ。これを「CEO」という、法的定義のない経営上の肩書に置き換えることは、厳密さを欠く。

代替となりうる英語表現

では、「Representative Director」以外に、どのような表現が考えられるか。

1. Representative Director(直訳)

馴染みはないが、「会社を代表する(represent)取締役(director)」という意味は伝わる。日本企業の登記簿翻訳では最も一般的に使われている。

2. Director and Legal Representative

「取締役であり、法的代表者である」という意味を明確にした表現。「Legal Representative」は多くの国で「法的代表者」として理解される。

3. Managing Director

イギリス英語で「経営を担当する取締役」の意味。代表権を持つニュアンスがあるが、正確な対訳ではない。

4. President and Representative Director

代表取締役社長の場合に使える表現。「President」で経営トップであることを示し、「Representative Director」で法的な役職を示す。

5. Director (Authorized Signatory)

契約書への署名権限を強調したい場合に使える表現。「署名権限を持つ取締役」という意味。

文脈による使い分け

結局のところ、どの表現を使うべきかは文脈による。

登記簿謄本の英訳(公文書としての正確性が重要)

Representative Director を基本とする。必要に応じて「(Legal Representative)」などの補足を添える。

契約書での署名者表記(署名権限が重要)

Director and Legal RepresentativeAuthorized Signatory を使うと、相手に伝わりやすい。

ビジネス上の紹介(経営上の役割が重要)

PresidentCEOManaging Director など、相手の国で馴染みのある肩書を使うことも選択肢。ただし、登記上の役職との違いは認識しておく。

実際の運用—二段構えの説明

海外の相手方とやり取りする際、効果的なのは二段構えの説明だ。

まず、相手に馴染みのある言葉で大まかな役割を伝える。「He is our CEO」「She is the head of our company」といった具合だ。

その上で、法的な文脈では正確な表現を使う。「His official title under Japanese corporate law is Representative Director」「She has the legal authority to represent the company」と補足する。

こうすることで、相手の理解を助けつつ、法的な正確性も確保できる。

結論

「Representative Director」という英語表現は、英語圏ではほとんど馴染みがない。アメリカやイギリスの会社法に「代表取締役」に相当する役職が存在しないからだ。

その背景には、取締役会の構造の違いがある。日本の取締役会は業務執行者で構成される「マネジメント・ボード」型であり、その中から会社を代表する「代表取締役」が選ばれる。一方、アメリカの取締役会は監督機関である「モニタリング・ボード」型であり、業務執行と会社の代表はCEO等のOfficerが担う。取締役と代表者が分離しているため、「代表する取締役」という概念自体が存在しない。

では「CEO」と訳せばいいかというと、そう単純ではない。代表取締役は「法的代表権を持つ取締役」であり、「経営の最高責任者」であるCEOとは概念が異なる。代表取締役が複数いる会社もあれば、CEOが代表取締役でない会社もある。

登記簿謄本の英訳では「Representative Director」を基本としつつ、文脈に応じて「Legal Representative」「Managing Director」「President」などの表現を補足的に使い分けることで、相手の理解を助けることができる。馴染みのない表現だからこそ、必要に応じて説明を添える姿勢が重要だ。

この記事の著者

ニシヤマ "登記簿マスター" カツユキ

翻訳専門タイナーズの代表者。2006年に原稿作成会社を立ち上げ、その後、翻訳業務を開始する。自身は言語学を応用した研究領域の大学院既卒者(修士)。表現のニュアンスを大切にしている。

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