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アメリカやカナダに「資本金」はない—では何で会社の信用を測るのか

time 2026/01/12

日本の登記簿謄本を英訳していると、「資本金」という項目が出てくる。

当サイトでは「Stated Capital」を基本訳としているが、この訳語をアメリカやカナダの担当者に見せたとき、ピンとこない顔をされることがある。

それもそのはずだ。アメリカやカナダには、日本のような「資本金」の概念がほとんど存在しないからだ。

日本における「資本金」の意味

日本では、資本金は会社の信用力を示す重要な指標とされてきた。

「資本金1億円の会社」と聞けば、それなりの規模と信用がある会社だと多くの人は感じるだろう。取引先の選定や入札参加資格、金融機関の融資審査など、さまざまな場面で資本金の額が参照される。

法的には、資本金は「会社に拠出された財産のうち、資本金として計上された額」であり、債権者保護の観点から一定の配当規制の基準となる。会社法上、資本金を減少させるには債権者保護手続が必要だ。

このように日本では、資本金は会社の信用・規模・安定性を示す公的な指標として機能している。

アメリカ・カナダには「資本金」がない

ところが、アメリカやカナダの会社法では、日本のような「資本金」の概念はほとんど存在しない。

かつてはアメリカにも「Legal Capital(法定資本)」や「Stated Capital」という概念があった。株式の額面(Par Value)に発行株式数を掛けた金額を資本金とし、これを維持することで債権者を保護するという考え方だ。

しかし、この制度は20世紀後半から急速に廃止・緩和されていった。

代表的な例がデラウェア州だ。アメリカの上場企業の多くが登記するデラウェア州では、1967年の会社法改正で額面株式の強制を廃止し、資本金概念を大幅に緩和した。現在では、額面のない無額面株式(No Par Value Stock)が主流となり、「資本金」という概念自体がほぼ形骸化している。

カナダも同様だ。連邦法であるCanada Business Corporations Act(CBCA)は、資本金維持の原則を採用していない。州法レベルでも、多くの州が資本金概念を持たない。

なぜ資本金制度は廃れたのか

資本金制度が廃れた理由は、債権者保護の手段として実効性が低かったからだ。

資本金は「設立時または増資時に拠出された額」を示すに過ぎない。会社が事業を続けるうちに、その金額が実際の財産として残っている保証はどこにもない。資本金1億円の会社が、実際には債務超過で1円も財産がないということは十分にありうる。

つまり、資本金は「過去に拠出された額の記録」であって、「現在の財務状況」を示すものではない。債権者が本当に知りたいのは後者であり、資本金の額は信用判断の材料としては不十分だったのだ。

アメリカでは、資本金維持規制の代わりに、支払能力テスト(Solvency Test)や詐害的譲渡法(Fraudulent Transfer Law)など、より実態に即した債権者保護の仕組みが発達した。

では、何で会社の信用を測るのか

資本金がない国では、会社の信用はどのように判断されるのだろうか。

1. 財務諸表

最も基本的な指標は、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表だ。総資産、純資産、売上高、利益——これらの数字が会社の実態を示す。アメリカでは監査済み財務諸表(Audited Financial Statements)の提出を求められることが多い。

2. 信用調査機関のレポート

Dun & Bradstreet(D&B)などの信用調査機関が発行する企業信用レポートが広く利用されている。D-U-N-S Numberと呼ばれる企業識別番号は、国際取引やアメリカ政府との取引で頻繁に要求される。

3. 銀行取引履歴・信用枠

銀行との取引履歴や、設定されている信用枠(Line of Credit)の額も、信用力の指標となる。

4. 保険の加入状況

賠償責任保険などの加入状況と保険金額も、取引先の信用判断に使われる。特に建設業やサービス業では、一定額以上の保険加入が取引条件となることが多い。

5. 過去の取引実績・レファレンス

過去の取引先からの推薦状(Reference Letter)や、業界での評判も重要な信用指標だ。

日本企業が海外に登記簿を提出するとき

日本企業がアメリカやカナダの取引先に登記簿謄本を提出する場合、資本金の記載をどう理解してもらうかが課題となる。

「Stated Capital: JPY 100,000,000」と書いても、相手は「だから何?」と思うかもしれない。資本金の額が会社の現在の財務状況を示すものではないことを、相手も理解しているからだ。

むしろ相手が知りたいのは、財務諸表や信用調査レポートに記載されている情報だ。登記簿謄本は「この会社が法的に存在すること」を証明する書類としては有効だが、信用力の証明としては別の書類が必要になることが多い。

逆に言えば、資本金の額が小さいからといって、海外取引で不利になるとは限らない。相手が見ているのは財務諸表や信用調査レポートであり、資本金の額ではないからだ。

翻訳実務への示唆

登記簿の「資本金」を英訳する際、以下の点を意識しておくと良い。

1. 訳語の選択

「Stated Capital」「Share Capital」「Capital」など、いずれも使用可能だ。ただし、アメリカの担当者には「Stated Capital」が馴染みにくい可能性がある。文書の提出先に応じて、補足説明を添えることも検討する。

2. 資本金の意味を説明する場面

相手から「この数字は何を意味するのか」と問われた場合、「日本の会社法上、登記が義務付けられている資本の額であり、設立時または増資時に株主から拠出された金額の一部を示す」と説明できる。ただし「現在の純資産額ではない」ことも併せて伝えるのが誠実だ。

3. 財務諸表との併用

信用力の証明が目的であれば、登記簿謄本だけでなく、財務諸表や信用調査レポートの提出を併せて検討する。相手が本当に知りたい情報を提供することが、スムーズな取引につながる。

結論

日本の「資本金」は、会社の信用・規模を示す公的な指標として重視されてきた。

しかし、アメリカやカナダでは資本金の概念はほぼ存在せず、会社の信用は財務諸表、信用調査レポート、銀行取引履歴などで判断される。

日本企業が海外に登記簿を提出する際、資本金の額だけで信用力が伝わるとは限らない。相手の国・文化・商慣習を理解し、必要に応じて財務諸表など他の書類を併用することで、より正確な情報を伝えられる。

この記事の著者

ニシヤマ "登記簿マスター" カツユキ

翻訳専門タイナーズの代表者。2006年に原稿作成会社を立ち上げ、その後、翻訳業務を開始する。自身は言語学を応用した研究領域の大学院既卒者(修士)。表現のニュアンスを大切にしている。

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