2025/12/05
登記簿謄本(登記事項証明書)の英訳は、「日本語を英語に置き換える」だけでは通りません。海外の銀行・取引先・当局が見るのは、内容の正確さだけでなく、表記の一貫性や読みやすさ、そして「この翻訳は信頼できる」と判断できる体裁です。このページでは、英訳が必要になる場面から、品質の見られ方、つまずきやすいポイント、納品形態や翻訳証明まで、実務目線で整理します。
英訳が必要になる典型シーン
登記簿英訳が求められるのは、だいたい次のようなケースです(”会社の身元確認”が目的になりがちです)。
- 🏦海外銀行口座の開設・維持(KYC/コンプライアンス)
- 📝海外取引先との契約・審査(ベンダー登録、与信、取引開始)
- 🏢海外子会社・支店・駐在員事務所の設立関連
- 💻海外プラットフォームのアカウント審査(決済/広告/EC等)
- 📄海外のライセンス申請・登録
- 💼投資・M&A・デューデリジェンス(会社の基本情報確認)
翻訳品質で見られるポイント
英訳の出来は、提出先から見ると次の観点でチェックされやすいです。
⚠ 表記統一
いちばん差し戻しにつながりやすい
- 同じ語が別の英語になっていないか
- 会社名・住所・人名が他書類と整合しているか
- 数字・日付形式がブレていないか
💡 注記
どこまで”説明”するか
- 日本固有の制度・表現には注記が有効
- 増やしすぎると「原文にない情報」と見られることも
📐 レイアウト
読みやすさ=信頼性
- 原文の構造(項目立て)を維持
- “どこが現在の情報か”が一目で分かるか
英訳の基本ルール(固有名詞/住所/役職)
ここからは、現場で事故が起きやすい「三大ポイント」です。
固有名詞(会社名・人名)
- 原則は、登記上の表記をベースにしつつ、提出先が期待する表記と整合させます
- 会社名に公式英語表記がある場合は、それに寄せる(Webサイトや契約書に合わせる運用も多い)
- 人名はパスポート表記に寄せたい場面もあるため、提出書類全体の整合が重要です
住所(日本住所の英文化)
日本住所は、順序・表記ルールの違いでブレが出やすい領域です。重要なのは「読みやすい英語」よりも、同一住所として一意に特定できる表記です。
- 丁目・番地・号の扱い
- ハイフン、カンマ、ビル名、階数の位置
- ローマ字表記の揺れ(Shinjuku-ku / Shinjuku Ward など)
役職(代表取締役等)
役職は”単語の置き換え”が難しいため、提出先の一般的理解に合わせます。
| 日本語 | 英訳(一般的) | 備考 |
|---|---|---|
| 代表取締役 | Representative Director | 最もよく使われる |
| 取締役 | Director | |
| 監査役 | Auditor | 文脈により補足が必要なことも |
抹消事項(下線)・履歴の扱い
登記簿英訳でつまずきやすいのが、下線(抹消事項)や変更履歴の扱いです。
⚠ 下線(抹消事項)の考え方
- 下線は一般に「過去に有効だったが、現在は抹消された事項」を示します
- 提出先が履歴を見たがっている場合、抹消事項を落とすと「情報が欠けている」と判断されることがあります
実務での基本方針
- 原則:原文の構造を保ち、抹消事項も分かる形で訳す
- ただし「現在事項のみ」で十分な提出先なら、履歴を必要以上に目立たせない編集も有効
- 重要:“現在の情報”と”過去の情報”が混ざって見えないこと
→ ここにレイアウトと注記の技術が出ます
失敗例(通らない原因)→回避策
「ちゃんと訳したのに通らない」は、原因が”翻訳ミス”ではなく”運用ミス”であることも多いです。
❌ 失敗例1:表記がバラバラ(住所・会社名・役職)
原因:同じ情報が、別ページ・別書類で違う表記になっている
✓ 回避策:最初に「表記ルール(スタイルガイド)」を決め、全体で統一する
❌ 失敗例2:原文の構造が崩れて読みづらい
原因:訳文が文章化されすぎて、どこが何の項目か分からない
✓ 回避策:見出し・区分・箇条書きで、原文の”証明書っぽさ”を維持する
❌ 失敗例3:履歴・抹消の扱いで誤解される
原因:下線部分が訳文で区別されず、現在の情報と混在して見える
✓ 回避策:抹消事項が分かる表示、注記、履歴の整理(「現在→履歴」の順)を徹底
❌ 失敗例4:提出先の要求(形式・証明)を確認していない
原因:英訳はOKでも「翻訳証明が必要」「原本指定」「発行日指定」等の要件違い
✓ 回避策:提出前にチェックリスト化して確認(不明なら提出先に質問)
納品形式(PDF/Word)・翻訳証明の考え方
最後に、提出実務でよく聞かれる「納品の形」についてです。
納品形式:PDFとWordの使い分け
- 体裁が崩れない
- 提出向き
- 社内共有しやすい
📝 Word
- 提出先の指定で修正が必要なとき便利
- 社内で追記が必要な場合に有利
翻訳証明(Certificate of Translation)の考え方
- 提出先によっては「翻訳が正確であることの証明」を求められることがあります
- 一方で、不要な提出先も多いので、“必要な場合だけ用意する”が基本
- 重要なのは、提出先が求めているのが
・翻訳者の署名・連絡先なのか
・会社としての証明なのか
・公証等まで必要なのか
という粒度の確認です
よくある質問(FAQ)
Q. 登記簿謄本の英訳は、どんなときに必要ですか?
A. 海外の銀行・取引先・当局などに提出するときに求められることが多いです。口座開設(KYC)、取引審査、海外子会社設立、ライセンス申請など、「会社の身元確認」を目的とする場面で必要になりやすいです。
Q. 登記簿の英訳で一番多い差し戻し原因は何ですか?
A. 表記の不統一(会社名・住所・役職・日付など)が最も多い原因になりがちです。翻訳自体が正しくても、他書類と表記が一致しないと、提出先が同一性を確認できず止まることがあります。
Q. 代表取締役は英語で何と訳すのが一般的ですか?
A. 一般には “Representative Director” がよく使われます。ただし提出先が “CEO” 等を求める場合もあるため、原則は登記上の役職として訳し、必要なら注記や提出先要件に合わせて調整します。
Q. 日本の住所は英訳でどう書けばいいですか?
A. 大切なのは“同一住所として一意に特定できる”表記で、サイト内で統一することです。丁目・番地・号、ビル名・階数、ハイフンの使い方などでブレやすいので、最初に表記ルールを決め、他書類(契約書・請求書等)とも整合させるのが安全です。
Q. 登記簿の下線(抹消事項)は英訳に入れるべきですか?
A. 原則は入れるのが安全です(特に履歴事項全部証明書を訳す場合)。抹消事項を省くと「原文の一部が欠けている」と見なされることがあります。現在情報と混ざらないよう、レイアウトや注記で区別します。
Q. 履歴事項と現在事項、英訳ではどちらが多いですか?
A. 提出先が指定していなければ、履歴事項を求められることが多い傾向です。ただし「現在のみ」で足りる提出先もあります。提出要件がある場合はそれが最優先です。
Q. 翻訳証明(Certificate of Translation)は必要ですか?
A. 提出先次第で、必要な場合と不要な場合があります。必要と言われたら「誰が証明する形式か(翻訳者個人/翻訳会社/公証まで必要か)」まで確認すると、過剰対応や不足を防げます。
Q. 納品形式はPDFとWord、どちらが良いですか?
A. 提出が主目的ならPDFが基本で、修正や指定がありそうならWordもあると安心です。提出先が形式を指定することもあるため、不明ならPDFを基本にしつつ、必要に応じてWordも用意できる体制が便利です。
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英訳が必要なケースでは、認証(公証・認証・アポスティーユ等)や、他書類との整合がセットになることがあります。